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2013年4月21日 (日)

柔らかな頬 1

Yawaraka桐野夏生さんの文章は、かなり強引で奇妙と思うが、ついて行かなければその世界には入れません。冒頭、主人公カスミに魅かれる石川は今のカスミに魅かれるのであり、過去や昔のカスミにではないト言う。

 

この物語は現在形で進行するがカットバックで過去が織り込まれる。石川の言う事を、あらかじめ桐野さん自身が裏切っていて石川自身も、やがて自分の言葉を裏切る。つまり書かれなくていい事が最初に書かれる。

 

桐野さんのいつもの、はぐらかすような書き方です。「これグロテスクでしょう?」と看護師が聞く。ええ、どぎついですねえト私は受ける。「ちょっとグロで、でも面白い」そんな事を言いながら看護士は体温計を取った。

 

感覚を逆なでするように物語は進行して行く。男女はダブル不倫を勧めて行き、すぐに上手く行かなくなる。カスミを選ぶのが石川なのではなく、石川を選ぶのがカスミです。ではなぜ石川が選ばれるのか。

 

結局、書かれない。石川は一旦、物語から姿を消し、違う女を連れてカスミの前に現れるのだから、書くまでもなく魅力的な男として存在するのでしょう……か? タイトルの「柔らかい頬」とは子供の肌を意味し、対極にある肌とは。

 

石川の肌か男の肌を意味します。看護士がなぜ、個人的な会話をするのか。この話は個人的ではないのか。よく判らない……いえ先刻、この看護師に妙な質問をして、妙な質問を返された。重要ではない話は、そこから逸脱した。

 

カスミの、夫への失望が別な男への期待に変わる。ひとつ逸脱すれば次のもうひとつを逸脱する。学歴もキャリアもない女性にとって、男は社会をよじ登る梯子のような物です。病室に来るのは医師、看護師の他にない。

 

むろん用務員もあられるが会話すらなく、まして会話から逸脱する事はない。コンクリートの部屋と廊下で、基本的には業務連絡が続いていく。個人ケースからの逸脱はないのです。

 

しかし本当は逸脱しない個人はなく、あぶれ出さない人間もいない。好きだとか嫌いだとか、どうしても嫌だとか……あぶれ出した心は言葉となって灰汁となって染み出す。

 まだ微かに麻酔のかかった心で、私は、私を開放できないかのように桐野さんを読んでいる。小説はフィクションで事実に即したものではないが、事実でもあるように記事を模した描写から始まります。

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