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2009年10月15日 (木)

たそがれの二人

Kuri_3

昨夜、こんな夢を見ました。

男は異性の同級生に会います。初め声をかけたのは男のほう、夕日に引かれていつもと違う道を曲り、遠回りした買物帰り。見かけた学生時代の女友達も、いつの間にやら60才と言います。

年を取ったわよねえ、なんて挨拶をします。あれから40年が過ぎ、寿命まで20年、まだ20年もう20年……話のリードは女性の方で、男は次第に押されて行きます。学生時代からの二人の癖、昔はともかく今はそれもこころよい。

夕日のせいか顔色が映え、何にも増して懐かしさが意味深く思えます。昔、ウマが合っても合わなくとも、それは夕日の色のせい。横丁の60才、ただの60才です。昔、馴染んだ教師が80幾つで亡くなったとか。たそがれた話題です。

「ねえ、あなた今もギター弾くのかなあ」

「弾くって言うほどは」

「去年、父が逝ったの。古いギターがあるけどもらってくれないかなあ」

「自分では弾かないの。またギターはブームというよ」

「いやよ。ギターの練習なんて指が痛くて」

「何だ、少しは弾くのか。お父さんの供養に使うといいのに」

「今いい? ちょっと取りに来てよ」女は強引に歩き出します。

男は買物袋を抱えて付いて行くのです。家に着くと女は鍋のスイッチを先に入れ、

「これ、これなのよ」と箪笥の奥からギターケースを取り出します。

「この弦、張ってみてくれる?」ガット弦のギターです。

「父は、今時分、いつもアランフェスを弾いていたわ。あなたは弾けたり……しないわよね」

「アランフェス? あれはコンチェルトだろう。独奏ならアルハンブラの間違いじゃないか?」

「アルハンブラ? どっちでもいいのよ。何か弾いて」男をダイニングに置いて、女は台所に行きます。男はギターに弦を張って調弦を初めます。

「アルハンブラはこの曲……こんな感じだった。それとも……」男は演奏します。

「これがアランフェスの一部分、協奏曲だから、これにオーケストラのバックが付くんだ。お父さんの演奏は……」男が話しかけると、女は立ち尽くし、それから顔色を変え、声を上げて泣きます。込み上げるものが、どうしようもない。そんな泣き方でした。

「……どっちでもいいのか! 去年、死んだお父さんへ、彼女に変わって捧げます」男は天井に向ってそういい、アルハンブラのトレモロ部分をまた弾き始めます。いつもと変わらない夕暮れが、いつものように窓の外を通り過ぎます。

ガスコンロの鍋の中で、ニンジンとタマネギが煮え立つ頃……同級生はどちらも同じ年、今年で60才。学生の頃から40年が過ぎ、80が寿命なら20年、まだ20年もう20年……

●昨夜、こんな夢を見またトいうのは夢十夜の書き出しです。漱石に習って時々、こんな短編を書いています。

●映像は「京都の和菓子」から http://kyoto-wagasi.com/index.html

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